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母父サンデーサイレンスはなぜ中央GⅠから消えたのか、データで追う母系の世代交代

母父サンデーサイレンスは、もう中央GⅠを勝てない


引退レースとなった2020年のジャパンカップを、アーモンドアイは制しました。
このとき、日本競馬のある一つの流れも幕を下ろしていました。ただ、その意味がはっきりするまでには、もう少し時間がかかります。

アーモンドアイの母はフサイチパンドラ。その父、つまりアーモンドアイにとっての母父はサンデーサイレンスです。
中央競馬のGⅠを「母父サンデーサイレンス」で勝った馬は、このアーモンドアイを最後に、2021年から2026年の今日まで1頭も出ていません。丸6年、ゼロが続いています。

朝靄の牧場で仔馬に寄り添う黒鹿毛の繁殖牝馬のイメージイラスト
ℹ AI生成
この画像は、AIによって生成された架空のイメージであり、実在の人物・馬・団体等を描写したものではありません。
また、肖像権・パブリシティ権に配慮し、特定の人物に類似させるための学習データ使用やプロンプト調整等はおこなっておりません。

[使用ツール・モデル]
・OpenAI gpt-image-2

ほんの十数年前まで、母父サンデーサイレンスは一流馬にとって最もありふれた血統背景でした。2015年に皐月賞と日本ダービーの二冠を制したドゥラメンテも、父はキングカメハメハ、母父はサンデーサイレンス。この組み合わせから、何頭ものチャンピオンが世に出ています。
そのありふれた血が、なぜ中央GⅠの勝ち馬名鑑から抜け落ちたのか。サンデーサイレンスの血は、本当に母系から失われつつあるのか。
過去のGⅠ勝ち馬を母父ごとにすべて数え直して、この問いを追いかけます。

目次

そもそも母父とは何を意味するのか


母父とは、その馬の母親の父にあたる馬のことです。ブルードメアサイアー、略してBMSとも呼ばれます。
競走馬の血は半分が父から、もう半分が母から伝わります。ふだん話題になるのは父のほうですが、母の父が持ち込む資質は、仕上がりの早さや気性に思いのほか濃く出ます。

父ほど表には出ませんが、母父は馬の下地を左右する、無視できない存在です。どの馬が母父として層を成しているかは、その国の競馬の地力を映します。

数字で追う母父サンデーサイレンスの二十年


まずは、母父サンデーサイレンスを持つ馬が中央GⅠをどれだけ勝ってきたのか、年ごとに数えてみます。対象は2005年から2026年7月までの中央競馬のGⅠで、勝ち馬の母父がサンデーサイレンス本馬だったレースを拾い上げました。
※本記事のデータは編集部による独自集計です。

母父サンデーのGⅠ勝利数主な勝ち馬
20053ラインクラフト、フサイチリシャール
20061ソングオブウインド
20075アドマイヤムーン、ヴァーミリアン、トールポピー
20085スクリーンヒーロー、レジネッタ、ヴァーミリアン
20092サクセスブロッケン、ローズキングダム
20104ローズキングダム、ジャガーメイル、グランプリボス
20113グランプリボス、アヴェンチュラ、アルフレード
20122ホエールキャプチャ、ロゴタイプ
20132ベルシャザール、ロゴタイプ
20140
20152ドゥラメンテ(二冠)
20162レッドファルクス、ロゴタイプ
20172ペルシアンナイト、レッドファルクス
20184アーモンドアイ
20191アーモンドアイ
20203アーモンドアイ
20210
20220
20230
20240
20250
20260―(7月時点)

数字の山は、2007年と2008年にあります。年に5勝ずつ。アドマイヤムーンやヴァーミリアンが走り回っていたこの頃が、母父サンデーサイレンスの最盛期でした。

その後も波はありながら、毎年のように勝ち馬を送り出します。ところが、表の下のほうに目を落とすと、2021年から2026年まで、きれいに0が並んでいます。6年続くこのゼロの段は、思わず二度見直しました。

見落としてはいけないのが、最盛期を過ぎたあとの勝ち星の中身です。2015年の2勝はドゥラメンテ1頭の二冠。2018年から2020年にかけての勝ち星は、そのほとんどをアーモンドアイ1頭が積み上げたものでした。
層の厚みで押していたのは2010年代の初めまで。そこから先は、ひと握りのスターが数字を支えていました。その最後の1頭が、アーモンドアイです。

アーモンドアイが府中のターフを去った翌年から、母父サンデーサイレンスは中央GⅠを1つも勝っていません。

なぜ母父サンデーは枯れたのか


理由は、サンデーサイレンスという馬がとうに世を去っている、という一点に尽きます。
サンデーサイレンスは2002年に亡くなり、その最後の産駒は2003年に生まれました。

夏の牧場で草を食む複数の繁殖牝馬と仔馬の群れのイメージイラスト
ℹ AI生成
この画像は、AIによって生成された架空のイメージであり、実在の人物・馬・団体等を描写したものではありません。
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種牡馬が母父として血を残すには、まずその娘たちが繁殖牝馬にならなければなりません。2003年生まれを最後に、サンデーサイレンスの娘はもう1頭も生まれてきません。繁殖牝馬が現役でいられるのはおおむね十数年ですから、その娘たちも2010年代の終わりごろには、次々と繁殖の一線を退いていきました。母父サンデーサイレンスを持つ仔馬そのものが、新たに生まれてこない。

この流れは、集計にもはっきり表れています。母父サンデーサイレンスで中央GⅠを勝った馬を生年順に並べると、いちばん若いのが2015年生まれのアーモンドアイ。それより下の世代からは、ただの1頭も出ていません。

アーモンドアイの母フサイチパンドラは2003年生まれ、まさにサンデーサイレンス最後の世代の娘でした。彼女が産んだ歴史的名牝が、母父サンデーの掉尾を飾る役回りになったわけです。

母となる娘たちがいなくなった以上、母父サンデーの産駒がいずれ尽きるのは避けようがありません。ここ数年で数字に出ただけで、実際には十年以上も前から先細っていました。

黄金配合だった非サンデーの父とサンデーの母


母父サンデーサイレンスが強かったのは、単体でではありません。「サンデーの血を持たない父」と組み合わさったときに、最も力を発揮しました。
母父サンデーサイレンスで中央GⅠを勝った24頭を、父の種牡馬別に並べたのが次の表です。

父(種牡馬)母父サンデーとのGⅠ勝利数代表産駒
ロードカナロア8アーモンドアイ
キングカメハメハ5ドゥラメンテ、ベルシャザール、ローズキングダム
エンドスウィープ4アドマイヤムーン、ラインクラフト
ジャングルポケット4アヴェンチュラ、ジャガーメイル、トールポピー
エルコンドルパサー3ソングオブウインド、ヴァーミリアン
ローエングリン3ロゴタイプ
その他(クロフネ、シンボリクリスエス ほか)各2以下ホエールキャプチャ、アルフレード ほか

首位はロードカナロアの8勝。すべてアーモンドアイによるものです。2位のキングカメハメハは5勝で、ドゥラメンテらを送り出しました。
このロードカナロアとキングカメハメハは、父仔の関係にあります。キングカメハメハという一つの父系が、母父サンデーサイレンスと組んで、あわせて13勝を稼いだことになります。全24勝の半分以上が、この系統から出ています。

なぜこの配合がはまったのか。キングカメハメハの系統は、ミスタープロスペクターの流れをくむ、馬体の大きさとスピードが持ち味の血です。そこへ、瞬発力と柔らかさを備えたサンデーサイレンスの血を母から注ぎ込む。持ち味の異なる血をぶつけることで、互いの長所が際立ちました。いわゆる異系交配の妙が、ここにあります。

サンデーサイレンスがもともと日本にとって外から来た血だったからこそ、国内で層を成した主流の父とぶつけたとき、新鮮な化学反応が起きたとも言えます。

ドゥラメンテもアーモンドアイも、二度と同じ配合では作れません。母父にサンデーサイレンス本馬を据える、というその前提が、もう成り立たないからです。

血は一段下がる、母父はサンデー直仔の時代へ


では、母父サンデーサイレンス本馬が抜けた穴は、誰が埋めたのでしょうか。
埋めたのは、ほかならぬサンデーサイレンス自身の息子たちでした。かつてターフを沸かせたハーツクライやディープインパクト、ダイワメジャーやマンハッタンカフェが、いまは母父として、娘の仔にその血を伝えています。

夕暮れの競馬場で最終直線を追い比べる4頭のサラブレッドのイメージイラスト
ℹ AI生成
この画像は、AIによって生成された架空のイメージであり、実在の人物・馬・団体等を描写したものではありません。
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母父サンデーサイレンス本馬と、母父がサンデーサイレンス産駒(直仔)のGⅠ勝利数を、年ごとに並べてみます。

母父サンデー本馬母父サンデー直仔合計中央GⅠ全体に占める割合
201843726%
20191128%
202031417%
202105521%
202203312%
202303312%
202406625%
202507729%
2026(7月)03325%

本馬の列が0に変わった2021年、入れ替わるように直仔の列が5へ跳ね上がります。担い手の交代が、この一年ではっきり起きたことになります。

右端の割合を見てください。サンデーサイレンス系の母父が中央GⅠに占める比率は、本馬が消えたあとも1割から3割の幅で残り続けています。2025年の7勝は、直仔が母父となってからの最多です。

つまり、サンデーサイレンスの血は母系から失われてなどいませんでした。担い手が本馬から息子たちへ、ちょうど一世代ぶん下にずれただけでした。
いま母父として最も勢いがあるのはハーツクライで、2021年に皐月賞と天皇賞・秋、有馬記念を制したエフフォーリアが、その代表格です。エフフォーリアの父はエピファネイア、母父がハーツクライ。父方はサンデーの血を持たないロベルト系ですから、かつての「非サンデーの父とサンデーの母」という黄金配合の骨格は、母父が本馬から直仔に変わった形で、なお受け継がれています。

アウトブリードからインブリードへ


最後に、もう少し先の話をします。
サンデーサイレンスの血がこれほど広く行き渡ると、皮肉な変化が生まれます。かつては珍しい異系だったサンデーの血が、いまや避けようのない土台になりました。

2025年の天皇賞・秋を勝ったマスカレードボールは、その象徴でした。父はドゥラメンテ、母父はディープインパクト。ドゥラメンテ自身が母父サンデーサイレンスであり、ディープインパクトはサンデーサイレンスの息子です。この馬の血統表には、父方と母方の両側からサンデーサイレンスが入っています。

かつては1滴も持たないサンデーの血を「どう入れるか」に知恵を絞っていたのが、いまは重ねて入るサンデーの血を「どう御するか」に関心が移っている。配合で気を配る点が、そっくり入れ替わったわけです。

そしてもう一つ、見逃せない動きがあります。本馬が抜けた穴には、直仔だけでなく、サンデーの血をまったく持たない母父も入り込んでいます。直近6年の母父別GⅠ勝利数を見ると、ハーツクライを筆頭に、クロフネ、キングカメハメハ、ハービンジャーといった非サンデー系の母父がずらりと上位に並びます。
サンデーがあまりに濃くなったぶん、こんどは非サンデー系の母が、かつてのサンデーの母のように「効く異系」として価値を持ち始めた。母系の顔ぶれは、以前よりはっきり広がってきました。

まとめ


母父サンデーサイレンスという肩書きは、中央GⅠの世界からもう消えました。2020年のアーモンドアイが、その最後の担い手です。

ただ、消えたのは母父欄に載る名前であって、血そのものではありません。ハーツクライやディープインパクトの母父という形に姿を変え、あるいは三代前、四代前へと下がりながら、サンデーサイレンスの血はいまも一流馬の血統表に残っています。
母父欄から名前が消えたのは、血が薄れたからではありません。むしろ土台に溶け込みすぎて、いちいち書き出すまでもなくなった。24頭を数え終えて、行き着いたのはそんな見方です。

血統や過去のデータを自分の手で追うのは、時間はかかりますが、予想を組み立てる楽しさそのものです。
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