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新馬戦の1番人気はG1より当たる 夏の2歳戦の見方とデビュー月別の出世率

1番人気がいちばん勝つのは新馬戦と未勝利戦


薄暗い地下馬道から光の差す出口へ向かう若い競走馬と騎手のイメージ
ℹ AI生成
この画像・動画は、AIによって生成された架空のイメージであり、実在の人物・馬・団体等を描写したものではありません。
また、肖像権・パブリシティ権に配慮し、特定の人物に類似させるための学習データ使用やプロンプト調整等はおこなっておりません。

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2013年8月の新潟、芝1600m。夏に新馬戦を勝った馬が集まる一戦で、1番人気の牝馬が18頭立ての最後方にいました。3コーナー18番手、4コーナーも18番手。そこから上がり3ハロン32秒5で、17頭を差し切ります。ハープスターです。0秒5差の2着は4番人気のイスラボニータでした。
翌春、ハープスターが桜花賞を、イスラボニータが皐月賞を勝ちます。8月下旬の新潟に、この2頭が同じゲートへ入っていました。

夏の2歳戦は、そういう馬が紛れ込んでいる場所です。とはいえ出走するのは全馬キャリアゼロ。前走もなく、持ち時計もない。新聞に載っているのは父の名前と、調教の短い数字くらいで、手が出しにくいレースの代表格でしょう。

それが数字を並べると、順序が逆になります。2016年から2025年の10年間で、2歳新馬戦の1番人気は勝率35.9%。同じ10年のG1の1番人気(34.6%)を上回り、JRAのどの区分よりも高い。手がかりがいちばん乏しいレースで、1番人気がいちばん勝っています。
当たりやすさには場所の偏りもあって、夏の新潟だけが下へ落ちます。

そして夏の新馬戦を勝った馬のその後を追うと、もう一つ通説と食い違う数字が出てきます。

目次

「キャリアゼロは荒れる」という感覚


新馬戦は荒れる、という感覚には、それなりの理屈があります。走った実績がないのだから、比べるものがない。予想紙の印もばらけますし、10番人気が勝っても誰もさほど驚きません。
この理屈は、たいてい検算されないまま通っています。

新馬戦の1番人気は、G1の1番人気より勝つ


集計の条件から書きます。2016年から2025年、JRAの10場で行われた平地レースで1番人気に支持された馬をすべて拾い、そのうち実際にゲートを出た分だけを数えました。競走中止や出走取消になった馬は入っていません。あとは区分ごとに、何%が勝ち、何%が3着以内に来たかを出すだけです。
※本記事のデータは編集部による独自集計です。

レース区分 1番人気の出走 勝率 3着以内率
2歳未勝利3,29638.6%72.2%
2歳新馬2,46435.9%67.7%
G124034.6%62.9%
2勝クラス4,54333.4%63.3%
1勝クラス9,68931.9%62.8%
G236431.3%63.2%
3勝クラス1,99229.9%58.5%
G368026.2%54.6%

上の2行が2歳戦です。新馬戦の1番人気は勝率35.9%、3着以内率67.7%。未勝利戦はさらに高く38.6%と72.2%。どちらもG1の1番人気(34.6%・62.9%)を勝率でも3着以内率でも上回りました。最下位はG3の26.2%で、新馬戦との差は9.7ポイントあります。

この並びが、そのまま「資料の多い順」になっていないところが妙です。前走も持ち時計も血統も戦績も揃っている3勝クラスやG3のほうが、1番人気は当たらない。競馬の1番人気は、突き詰めれば買った人たちの多数決です。その多数決がもっとも精度を出していたのは、資料のいちばん少ないレースでした。

もっとも、この表の並べ方には反論の余地があります。頭数です。

頭数が少ないから、ではありません


出走頭数が少なければ、1番人気の勝率は自動的に上がります。同じ10年の平均出走頭数を数えると、G1は16.6頭、G3は14.7頭。2歳新馬戦は13.0頭で、たしかにG1より3頭以上少ない。G1との比較だけなら、頭数の差で説明がついてしまいます。

そこで、頭数のほぼ揃う相手と比べます。1勝クラスの平均は13.6頭。新馬戦との差は0.6頭で、ほとんど同じ条件です。それでも1番人気の勝率は、1勝クラス31.9%に対して新馬戦35.9%。4ポイントの差が残ります。頭数では消えません。

手がかりを持っていないのは買う側だけ


霧に包まれた早朝の坂路コースを駆け上がる若い馬のイメージ
ℹ AI生成
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では、資料のないレースでなぜ多数決が当たるのか。
新馬戦は、一度も競走に出ていない馬しか出られません。この10年に新馬戦を走った馬は3万2080頭いますが、そのうち2回走った馬は1頭もいませんでした。生涯に一度きり、全馬が同じ「出走0回」の位置に並ぶレースです。

前走比較ができないぶん、買う側の材料は調教の動き、厩舎、騎手、それに父の名前へ絞られます。材料が少ないというより、材料の種類が一本に揃うわけです。

斤量も揃います。新馬戦は馬齢重量なので、ハンデも別定もありません。2023年から2025年の新馬戦を実測すると、6月から9月は牡馬も牝馬も上限55キロで、性別による差がありません。10月に入ると牡馬56キロ・牝馬55キロで1キロの差がつきます。2021年と2022年はどちらも1キロ軽い54キロと55キロでしたが、差のつき方は同じでした。夏の新馬戦は、負担重量を読む作業がそもそも要らない条件です。実際の斤量が50キロや51キロまで下がっている馬は、若手騎手の減量が適用された分です。

そして、馬を実際に見ている人たちの判断は、オッズにかなり早く出ます。厩舎がどこまで仕上げてきたか、どの騎手を確保したか。この2つは印よりも正直で、ほかの材料が少ないぶん、効き方が素直に表へ出てきます。
手がかりを持っていないのは買う側であって、市場全体ではありません。

新潟の1番人気だけが当たらない


当たりやすさは、競馬場によってかなり違います。6月から8月の2歳新馬戦だけを抜き出して、開催場ごとに1番人気の成績を並べました。京都はこの期間の該当が8戦しかないため、表から外しています。

開催場 1番人気の出走 平均出走頭数 勝率 3着以内率
阪神7311.0頭42.5%68.5%
中京9111.4頭39.6%67.0%
札幌11910.1頭39.5%76.5%
東京10113.4頭38.6%69.3%
函館1299.5頭35.7%78.3%
小倉13111.7頭34.4%69.5%
新潟17314.8頭33.5%62.4%
福島13813.0頭33.3%68.8%

上位は阪神の42.5%、そこへ中京39.6%と札幌39.5%が続きます。下位は新潟の33.5%と福島の33.3%。3着以内率になると差はもっと開いて、函館の78.3%に対して新潟は62.4%です。
並べ替えたくなりますが、その前に一つ。

この表は半分くらい頭数の表です。新潟は平均14.8頭で最多、函館は9.5頭で最少。5.3頭も違えば勝率は動きます。函館と札幌の3着以内率が高いのも、そこが効いています。

とはいえ同じ13頭台の東京と福島で勝率は5ポイント以上開き、頭数が最少の函館は35.7%どまり。頭数一本でもありません。この表を当てやすさのランキングとして読むのは、やめておいたほうがよさそうです。

新潟については、番組の組み方が少し気になります。この10年、夏の新潟の2歳新馬戦173戦のうち97戦が芝の外回りで、マイルが59戦、1800mが38戦。新潟の外回りは日本一長い直線を持ちます。一度も競走を経験していない馬が、最後に600m以上の直線で脚を比べ合う。走ってみるまで分からない部分は、他場より多いはずです。

夏にデビューして勝った馬が、いちばん出世する


夏の2歳戦は早熟な馬の草刈り場で、本物は秋になってから出てくる。そう言われることがあります。これも追いかけられます。
2015年から2022年にデビューした2歳新馬戦の勝ち馬1925頭について、その後に中央の重賞を勝ったかどうかを、デビュー月ごとに数えました。2022年デビュー組でも今年は4歳を過ぎているので、出世する時間はおおむね足りています。

デビュー時期 新馬戦の勝ち馬 のち重賞勝ち のちG1勝ち
夏(6〜8月)759頭115頭15.2%32頭4.2%
秋(9〜10月)582頭70頭12.0%21頭3.6%
冬(11〜12月)584頭55頭9.4%16頭2.7%

夏デビュー組が、どの指標でも上でした。重賞勝ちは15.2%で、冬デビュー組9.4%の1.6倍。G1勝ちは4.2%対2.7%。秋デビュー組はきれいに中間へ収まります。早熟どころか、腰を据えて出世してくるのは夏デビュー組のほうでした。

思い当たる理由は、入厩の順番と出走機会の数です。
素質を高く買われた馬は早くから乗り込まれ、6月の解禁と同時に使える状態へ仕上がります。夏デビュー組には、はじめから期待の大きい馬が集まりやすい。
そして6月にデビューした馬には、2歳の終わりまでに使えるレースが冬デビュー組より何倍もある。重賞に手が届く回数そのものが違います。どちらがどれだけ効いているのかは、この表からは分かりません。

数字だけ見れば「夏にデビューすると出世する」と読めます。ただ「出世する馬が夏にデビューできる」と読み替えても、表はそっくり同じ形になる。

夕方の逆光の中、広い芝の直線を走る若い馬のイメージ
ℹ AI生成
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[使用ツール・モデル]
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因果がどちら向きでも、夏の新馬戦の勝ち馬に翌年の重賞で再会しやすいことは変わりません。

新潟2歳ステークスという物差し


夏の2歳戦の到達点が、8月下旬に新潟の芝1600mで行われる新潟2歳ステークスです。その年の夏に勝ち上がった馬が集まるG3で、過去15年の勝ち馬はこの顔ぶれになります。

勝ち馬 人気 その後に勝った重賞
2025リアライズシリウス1番人気共同通信杯
2024トータルクラリティ6番人気なし
2023アスコリピチェーノ1番人気阪神ジュベナイルフィリーズ・京成杯オータムハンデ・ヴィクトリアマイル
2022キタウイング4番人気フェアリーステークス
2021セリフォス3番人気デイリー杯2歳ステークス・富士ステークス・マイルチャンピオンシップ
2020ショックアクション2番人気なし
2019ウーマンズハート1番人気なし
2018ケイデンスコール1番人気京都金杯・マイラーズカップ
2017フロンティア3番人気なし
2016ヴゼットジョリー3番人気なし
2015ロードクエスト1番人気京成杯オータムハンデ・スワンステークス
2014ミュゼスルタン3番人気なし
2013ハープスター1番人気チューリップ賞・桜花賞・札幌記念
2012ザラストロ3番人気なし
2011モンストール4番人気なし

1番人気が勝ったのは15年で6回、勝率40%。G3全体の26.2%を大きく上回ります。新馬戦では新潟の1番人気がいちばん当たらないのに、同じ新潟の重賞になると1番人気が飛び抜けて強い。夏を1戦か2戦使って序列がつくと、市場の精度はここまで上がるわけです。

勝ち馬のその後も濃い。15頭のうち7頭がこのレース以外の重賞も勝ち、うち3頭がG1馬になりました。ハープスターの桜花賞、セリフォスのマイルチャンピオンシップ、アスコリピチェーノの阪神ジュベナイルフィリーズとヴィクトリアマイル。5頭に1頭がG1を勝つ計算です。夏デビューの新馬勝ち馬全体のG1率4.2%と比べると、およそ5倍の密度になります。

ただ、勝っただけで重賞に届かなかった馬も8頭います。この一戦を勝てば出世が決まる、という単純な話でもありません。

冒頭のハープスターとイスラボニータは、この15年でいちばん極端な一年でした。1着と2着が翌春のクラシックを分け合った年は、ほかにありません。ちなみに2着イスラボニータの上がりは33秒7で、勝ち馬より1秒2遅い。同じ直線を走って、脚の使い方だけがまるで違いました。

裏を返せば、残る14年のうち8年は、勝ち馬がこのレース以外の重賞を勝てないまま終わっています。夏の到達点を測る一戦ではあっても、勝ったから約束されるわけではありません。

よくある質問


Q. 新馬戦は荒れやすいレースですか?
感覚としては荒れそうですが、数字は逆でした。1番人気の勝率で区分を並べると、2歳新馬戦は35.9%で全体の2位。首位は2歳未勝利戦の38.6%です。G1でも34.6%、G3は26.2%しかありません。キャリアがゼロなのに、人気の精度はむしろ高いほうに入ります。

Q. 出走頭数が少ないから勝率が高いだけではないですか?
その疑いは当たっていて、頭数は効いています。G1の平均16.6頭に対して新馬戦は13.0頭ですから、G1との比較だけなら頭数で片づきます。ただ1勝クラスの平均は13.6頭で、新馬戦との差は0.6頭。ほぼ同条件の相手と比べても勝率は35.9%対31.9%で、埋まらない差が残ります。

Q. 夏の2歳戦はどの競馬場で1番人気が信頼できますか?
勝率の順なら阪神の42.5%が最上位、下位が新潟33.5%と福島33.3%です。ただし出走頭数が場所ごとに違うため(新潟14.8頭に対して函館9.5頭)、この表を素朴な当てやすさの順位として使うことはできません。新潟に関しては、夏の新馬戦の半分以上が日本一長い直線を使う外回りで組まれている点が、読みにくさとして残ります。

Q. 夏にデビューした馬は早熟で終わりますか?
終わりませんでした。新馬戦の勝ち馬1925頭を追跡すると、のちに重賞を勝った割合は夏デビュー15.2%、秋12.0%、冬9.4%の順で、G1勝ちも夏の4.2%が最上位です。ただし、早くデビューできる馬がもともと期待されていた馬だという可能性も残ります。デビュー時期そのものが原因だと言い切れる数字ではありません。

Q. 新潟2歳ステークスの勝ち馬はどこまで出世しますか?
かなり幅があります。過去15年でG1まで届いたのは3頭(ハープスター・セリフォス・アスコリピチェーノ)。ほかの重賞を勝った馬まで含めると7頭で、残る8頭はこの一戦が唯一の重賞勝ちでした。5頭に1頭がG1馬という密度は高いほうですが、勝てば出世が確定する一戦ではありません。

まとめ


新馬戦の予想は、材料が足りないのではなく、材料の種類が少ないだけでした。前走比較ができない代わりに、厩舎の仕上げと騎手の顔ぶれ、それに父の名前が正面へ出てくる。そこを見ている人が多いぶん、キャリアゼロのレースの1番人気は、G1の1番人気より当たります。

あの新潟の6週間前、ハープスターは中京の芝1400m、10頭立ての新馬戦を勝っただけの1頭でした。1番人気ではありましたが、それだけです。毎年6月に2歳戦が解禁されると、そういう馬が10頭前後でゲートに入っていきます。夏のうちに勝ち馬の名前を書き留めておく。地味な作業ですが、秋になると効いてきます。

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