デアリングタクト|JRA史上初・無敗の牝馬三冠馬の軌跡
2020年、コロナ禍で世界が揺れる中、日本競馬界に歴史的な一頭が現れました。
名はデアリングタクト。デビューから5戦無敗で桜花賞・優駿牝馬・秋華賞の三冠を制し、JRA史上初の「無敗の牝馬三冠馬」となった一頭です。
また、肖像権・パブリシティ権に配慮し、特定の人物や馬に類似させるための学習データ使用やプロンプト調整等はおこなっておりません。
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牝馬三冠の達成自体は、メジロラモーヌ、スティルインラブ、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイに続いて史上6頭目。
ただし、無敗のまま三冠を手にした牝馬は、長い日本競馬の歴史を振り返ってもデアリングタクトただ1頭です。
ここからは、その13戦の歩みを順に追っていきます。
2017年4月15日、北海道日高町の長谷川牧場でデアリングタクトは生まれました。
父はエピファネイア。現役時代に菊花賞とジャパンカップを勝ち、種牡馬として大きな期待を背負っていた一頭です。
デアリングタクトは、そのエピファネイア産駒の初年度世代、つまり初めて世に出た一群の1頭でした。
母のデアリングバードは、現役わずか1戦で引退した馬です。ただ、母父はキングカメハメハという良血で、配合の地力は最初から備わっていました。
注目すべきは祖母のデアリングハートで、2005年の桜花賞で、後に日米オークスを制するシーザリオと激しく争った馬でした。
母系に染み付いた桜の舞台への因縁が、孫の代でついに花を咲かせます。
馬主はノルマンディーサラブレッドレーシング。一口馬主クラブの所有です。調教を担当したのは栗東の杉山晴紀調教師。
社台や金子真人といった大馬主の名前は、この陣営に並びません。地方の小さな牧場で生まれ、クラブ法人と若い厩舎の手で三冠を獲るというシンデレラの構図が、この馬の輪郭を作っていました。
デビュー戦は2019年11月16日、京都競馬場の芝1600m新馬戦でした。
鞍上は松山弘平騎手。引退レースを除く全12戦を、この騎手と組んで走ることになります。2番人気で迎えた一戦は、3コーナー3番手・4コーナー5番手から末を伸ばし、1分37秒7で快勝しました。
馬体重464kgは、当時の2歳牝馬としても小柄な部類で、しなやかさで動かす走りでした。
2戦目は年明け2020年2月8日、同じく京都芝1600mのエルフィンステークス(リステッド競走)。
3番人気での出走から、後方9〜10番手で進めて、上がり3ハロン34秒0で差し切り。
走破タイムは1分33秒6。新馬戦から4秒1も縮めてきた数字です。これだけ更新する3歳牝馬は珍しい。
2戦で見せた切れ味は、もうクラシック級の数字でした。前評判の上位に名前が躍り出るには、十分すぎる内容です。
2020年4月12日、阪神競馬場の芝1600m。第80回桜花賞は、コロナ禍で無観客となりました。スタンドに歓声のない競馬場で、一頭の牝馬がGⅠ初挑戦に臨みます。
単勝4.2倍の2番人気でした。
1番人気は前年の阪神ジュベナイルフィリーズを逃げ切ったレシステンシア。これに敵うかどうか、というのが大方の見立てでした。馬体重は前走と同じ466kg。
レース運びは、3コーナー13番手、4コーナーでも12番手と、ほぼ最後方からの追走。
最後の直線で大外に持ち出すと、先行勢を一気に飲み込んでゴールを駆け抜けます。
走破タイムは1分36秒1。
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この勝利は、杉山晴紀調教師にとって管理馬初のGⅠ制覇でした。
エピファネイア産駒にとっても重賞初制覇で、それがいきなりのGⅠ。
鞍上の松山弘平にとっては、2017年の皐月賞アルアイン以来、3年ぶりのGⅠでした。馬・厩舎・種牡馬・騎手のいずれにとっても「初」が連なる。これだけ初の重なる三冠の入り口は、過去にもそう多くはありません。
2020年5月24日、東京競馬場の芝2400m。第81回優駿牝馬(オークス)。
桜花賞馬として臨んだデアリングタクトは、単勝1.6倍の断然1番人気で送り出されました。
馬体重は前走と変わらず466kg。初の2400mで、しかも前走から800mの距離延長というのは、簡単な数字ではありません。1600m勝者が2400mで凡走するパターンは、過去にいくらでもありました。
レースに入ると、1コーナー11番手、2コーナー12番手、3コーナー12番手、4コーナーで13番手。事実上、最後方を回ってきました。
最後の直線で大外に進路を取ると、出走馬中最速となる上がり3ハロン33秒1の脚を繰り出しました。速かった。
東京2400mで上がり33秒1という時計は、その時点で平均よりかなり速い部類の数字です。3歳牝馬限定戦で出る上がりとしては、とりわけ目を引きます。距離が伸びれば末脚は鈍るというのが一般則ですが、デアリングタクトはそれをきれいに裏切りました。
2着のウインマリリンに差をつけ、走破タイム2分24秒4。実はこの上がり33秒1は、彼女の全13戦の中で最も速い末脚であり続けます。一番強かった日の脚を、二冠目で見せていた、という解釈もできます。
距離適性、新馬戦からの脚質適応力、あるいは枠順の有利不利。いろいろな言葉で説明できる勝利ではあります。ただ、現場で見ていた人間がまず受け取った印象は、もっと単純な「速い」だったはずです。
2020年10月18日、京都競馬場の芝2000m。第25回秋華賞。
単勝1.4倍の1番人気。注目すべきは馬体重で、前走の466kgから一気に14kg増の480kgで出走しています。3歳牝馬の夏越しで14kg増えるというのは、凡庸な数字ではありません。馬体が成長したのか、それとも太め残りなのか。陣営の見立てそのものを問うような数字でもありました。
この14kg増の馬体には、何度見直しても引っかかるものがあります。3歳の春から秋にかけて、サラブレッドの馬体は確かに変わります。ただ、3歳牝馬の春から秋にかけての変化はおおむね緩やかなのが普通で、14kgはやはり別物に近い数字です。事実、デアリングタクトはこの後のキャリアでも480kg台を維持していくことになります。秋華賞当日の馬体重こそが、彼女の完成形だったのかもしれません。
レース運びは、それまでの3戦より一段大胆でした。
1・2コーナーは13番手の後方待機。ところが3コーナーで一気に8番手まで押し上げ、4コーナーで5番手。
いわゆる「まくり」の競馬で、最後の直線に入る時点で、もう射程圏内に先頭を捕らえています。
走破タイム2分0秒6。2着のマジックキャッスルを退け、デビューから5戦5勝。
京都の直線で、JRA史上初の「無敗の牝馬三冠馬」が誕生した瞬間でした。
過去の牝馬三冠馬は、メジロラモーヌ、スティルインラブ、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイの5頭。いずれも歴史に名を刻んだ名牝ですが、誰も「全戦無敗」では駆け抜けていません。クラシック3冠を取りこぼさず揃え、しかも前哨戦・新馬戦まで遡って全勝利、というのは別の難易度の話になります。三冠への過程で1度も1着を明け渡さないというのは、能力に加えて、レース運びの安定、馬体管理、ローテーションの判断、騎手とのコンビ、厩舎の仕上げが、全て噛み合い続けないと成立しません。牡馬の三冠でも無敗の到達者は、ディープインパクトとコントレイルの2頭にとどまります。牝馬で初めてその難所を超えたのが、デアリングタクトという馬でした。そして2020年は、コントレイルが同じ年に無敗の牡馬三冠を達成した年でもありました。
同じ年に、牡馬と牝馬の両方で無敗三冠馬が出る。日本競馬の長い歴史の中で、これは一度きりの並びです。2020年は、競馬史を一段塗り替えた1年でした。
三冠を獲った馬は、その後どこへ向かうのか。デアリングタクトの場合、答えは古馬との対戦でした。
最初の試練は2020年11月29日のジャパンカップ。
このレースは、アーモンドアイ(GⅠ9勝の牝馬三冠馬)、コントレイル(無敗の牡馬三冠馬)、デアリングタクト(無敗の牝馬三冠馬)の3頭が、同じスタートラインに並ぶという前代未聞の構図で組まれました。三冠馬3頭の同レース出走そのものが珍しい。それが揃って三冠級の名馬となれば、世紀の一戦という言葉も誇張ではありません。
3番人気(単勝3.7倍)。馬体重は474kg、前走比マイナス6kgでの出走です。
道中7番手の好位を追走し、直線は上がり34秒4で伸びましたが、引退レースを完璧に勝ったアーモンドアイ、2着のコントレイルに次ぐ3着。
歴史的な一戦で、無敗の連勝記録はここで途切れました。
年が明けて2021年。3月の金鯱賞(GⅡ)で1番人気で復帰しましたが、ギベオンにクビ差の2着。
4月には香港のクイーンエリザベス2世カップ(GⅠ)に遠征し、ラヴズオンリーユーに次ぐ3着と健闘します。
ここから先は、長い影が差す時間になります。体部繋靭帯炎により長期離脱。繋(つなぎ)と球節を支える部位に炎症が起きる脚部不安で、競走馬としての復帰には数ヶ月単位の休養を要し、しかも再発しやすい厄介さで知られているものです。
2022年5月のヴィクトリアマイルで約1年ぶりに復帰し、6着。
続く宝塚記念で3着と復調の気配を見せましたが、オールカマー6着、エリザベス女王杯6着と勝ち切れないレースが続きました。
ラストランは2022年11月27日のジャパンカップ。
この一戦のみ、鞍上は松山弘平ではなく、マーカンド騎手でした。
後方14番手から上がり33秒7。3年ぶりの東京2400mで、最後まで切れ味の片鱗を見せたレースでした。
デアリングタクト 全戦成績
| 日付 | レース | 着順 | 人気 | タイム | 上がり | 騎手 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2019.11 | 2歳新馬 | 1着 | 2 | 1:37.7 | 34.8 | 松山弘平 |
| 2020.02 | エルフィンS (L) | 1着 | 3 | 1:33.6 | 34.0 | 松山弘平 |
| 2020.04 | 桜花賞 (G1) | 1着 | 2 | 1:36.1 | 36.6 | 松山弘平 |
| 2020.05 | 優駿牝馬 (G1) | 1着 | 1 | 2:24.4 | 33.1 | 松山弘平 |
| 2020.10 | 秋華賞 (G1) | 1着 | 1 | 2:00.6 | 35.8 | 松山弘平 |
| 2020.11 | ジャパンC (G1) | 3着 | 3 | 2:23.2 | 34.4 | 松山弘平 |
| 2021.03 | 金鯱賞 (G2) | 2着 | 1 | 2:01.8 | 36.1 | 松山弘平 |
| 2021.04 | QE2世C (G1) | 3着 | - | 2:01.4 | - | 松山弘平 |
| 2022.05 | ヴィクトリアM (G1) | 6着 | 5 | 1:32.7 | 33.6 | 松山弘平 |
| 2022.06 | 宝塚記念 (G1) | 3着 | 4 | 2:10.3 | 36.0 | 松山弘平 |
| 2022.09 | オールカマー (G2) | 6着 | 1 | 2:13.7 | 35.7 | 松山弘平 |
| 2022.11 | エリザベス女王杯 (G1) | 6着 | 1 | 2:14.0 | 36.5 | 松山弘平 |
| 2022.11 | ジャパンC (G1) | 4着 | 5 | 2:23.9 | 33.7 | マーカンド |
通算13戦5勝。
勝利はすべて、デビューから秋華賞までの5連勝に集中しています。それでも、三冠後の2020年ジャパンカップ3着、香港QE2世カップ3着、宝塚記念3着と、世界の舞台でも常に上位を争った馬でした。
2023年10月、体部繋靭帯炎の再発により引退が発表されました。送り先は、北海道新ひだか町の岡田スタッド。繁殖牝馬としての歩みが、ここから始まります。
2025年3月8日、初仔となる父ベンバトルの栗毛の牡馬が無事に誕生。
牧場からは「初仔にしては馬格もあって脚が長い体型」という報告が出ています。
また、肖像権・パブリシティ権に配慮し、特定の人物や馬に類似させるための学習データ使用やプロンプト調整等はおこなっておりません。
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日高の風の中で、母から受け継いだ何かを、まだ歩き始めたばかりの一頭の仔馬がこれから示していくはずです。
その走りを、いつか競馬場で見られる日が来るかもしれません。