クロワデュノールは宝塚記念で3つの壁を越えられず2着、春古馬三冠リーチは4角の位置取りでクビ差届かず
2026年6月14日(日)阪神競馬場で行われた宝塚記念で、クロワデュノールが史上初の春古馬三冠制覇に挑みました。結果は1番人気2着。2番手から押し切ったメイショウタバル(鞍上・武豊)をクビ差まで追い詰めながら、わずかに届きませんでした。リーチをかけた馬は2017年のキタサンブラックに次いで2頭目で、父キタサンブラックも同じローテで1番人気9着。春古馬三冠のリーチは、2例とも宝塚記念で止まったことになります。
ただ、クロワデュノールの負け方は、レース前に並べた「3つの壁」がそのまま出た負け方でした。まずはその壁を、過去のデータで振り返ります。
| 壁 | 中身 | クロワデュノールの数字 |
|---|---|---|
| 壁1:距離転換 | 大阪杯2,000m→天皇賞春3,200m→宝塚記念2,200m | 10戦のうち2,200mの出走経験ゼロ |
| 壁2:春3戦目連戦 | 大阪杯から中9週・天皇賞春から中5週 | 父キタサンブラックも同パターンで9着 |
| 壁3:阪神2,200m内回り | 直線356m・急坂2回・コーナー4回 | 阪神内回り2,200mは未経験(2,000m内回りは大阪杯で1戦) |
2017〜2025年の宝塚記念で1番人気が勝ったのは2021年クロノジェネシスと2023年イクイノックスの2回だけ。そこに2026年のクロワデュノール2着が加わり、過去10年でも1番人気の勝利は2回、3着以内は5回にとどまります。春の主役が当たり前のように飲み込まれてきたレース、それが宝塚記念の素顔です。
本記事では、3つの壁を1つずつデータで分解しながら、なぜクロワデュノールがクビ差まで迫って、なお届かなかったのかを、鞍上の北村友一騎手が2020年に同コースで残した記録と重ねて読み解いていきます。
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まず最初の壁は、春古馬三冠そのものの距離設計にあります。
大阪杯2,000m、天皇賞(春)3,200m、宝塚記念2,200m。たった3戦の中で、距離が短→長→中と上下に大きく振れます。中距離馬としての出力、ステイヤーとしての持続力、そして中距離に戻ったときの瞬発力。求められる質が3戦すべて違うわけです。
クロワデュノールはここまでの10戦で1,800m・2,000m・2,400m・3,200mを経験しています。ただし2,200mは1回も走っていません。
これは特別なことではありません。日本の中距離G1は2,000mと2,400mが主軸で、2,200mは宝塚記念とエリザベス女王杯、京都記念くらいしか出番がない設定です。古馬牡馬路線を歩むと、2,200mに当たる前に2,000mと2,400mで結果が出てしまう馬が多い、というだけの話です。
ただ、2,200mは設計上「2,000mとも2,400mとも別物」とされてきた距離です。陣営が「2,000mと2,400mを足して2で割れば対応できる」と言い切りにくいのは、間に内回りコースという別の条件が乗ってくるからで、そのあたりは壁3で詳しく見ます。
3,200mから2,200mへ短縮するときに起こりやすいのが、いわゆる「気合の入りすぎ」です。
長距離のレース運びは、序盤を温存して中盤までゆっくり脚を溜める運び方が定石です。京都の天皇賞(春)を制覇した直後の馬は、その溜める癖がついた状態で6週間後の中距離戦に出てくることになります。気合だけが過剰に乗って、内回りのタイトなコーナーで折り合いを欠く。これは過去にも何度か起きた光景です。
実例を1つだけ挙げます。2018年宝塚記念のサトノダイヤモンドは2016年有馬記念覇者で1番人気でしたが、6着に敗れています。金鯱賞2,000m→大阪杯2,000m→宝塚記念2,200mと200m刻みのローテで、最後の200m延長と内回りの折り合いに足を取られた格好でした。クロワデュノールはダービー馬・天皇賞春馬という肩書を背負って、しかも3,200mから一気に1,000m短縮しての挑戦になります。
距離経験という数字だけで考えると、クロワデュノールの2,200m未経験はマイナス材料でした。
ただし血統には材料があります。父キタサンブラックは2017年宝塚記念で1番人気9着でしたが、その前年2016年は同じ阪神2,200mで3着に走っており、コース自体が苦手だったわけではありません。父はコースには合った。けれど春3戦目では持たなかった。
そして結果から言えば、距離はクロワデュノールの致命傷にはなりませんでした。初の2,200mで上がり35.2というメンバー最速級の脚を繰り出し、9着に沈んだ父を大きく上回る2着。距離転換そのものは克服しています。では何が足りなかったのか。それを分けたのが、次の壁とその次の壁です。
2つ目の壁はローテーションです。
クロワデュノールが歩んでいる春3戦は次の通り。
| レース | 日付 | 距離 | 前走からの間隔 |
|---|---|---|---|
| 大阪杯 | 2026/4/5 | 2,000m | 前年JC(2025/11/30)から中17週 |
| 天皇賞(春) | 2026/5/3 | 3,200m | 中3週 |
| 宝塚記念 | 2026/6/14 | 2,200m | 中5週 |
大阪杯から数えると中9週、天皇賞春から数えると中5週で宝塚記念に向かう、というのが基本構造です。
この日程はキタサンブラック2017年とほぼ同じパターンです。2017年は4/2大阪杯1着→4/30天皇賞春1着→中7週空けて6/25宝塚記念。間隔は2026年クロワデュノールよりやや長めでしたが、それでも1番人気で9着に敗れています。鞍上の武豊騎手は中団からじわじわ動かしましたが、最後の直線で伸び切れずに終わりました。
宝塚記念のあとキタサンブラックは天皇賞(秋)に直行し、約4か月の休養を挟みました。その秋初戦で勝ち、ジャパンカップ3着、有馬記念1着で引退。年明けからの春3戦目だけが、唯一2桁着順に近い結果に沈んだレースだったわけです。
同じローテで宝塚記念に向かった近年の有力馬を、もう少し並べてみます。
※本記事のデータは編集部による独自集計です。
| 年 | 馬名 | 大阪杯 | 天皇賞(春) | 宝塚記念 |
|---|---|---|---|---|
| 2017 | キタサンブラック | 1着 | 1着 | 9着(1番人気) |
| 2024 | ベラジオオペラ | 1着 | 未出走 | 3着 |
| 2025 | ベラジオオペラ | 1着 | 未出走 | 2着(1番人気) |
ベラジオオペラの2年連続「大阪杯1着→宝塚記念2〜3着」も、半歩のところで頂点に届かなかった例です。間に天皇賞(春)を挟まない2戦ローテでも、宝塚記念の壁は薄くなりませんでした。クロワデュノールはそこに3,200mの天皇賞(春)が乗る分、馬体への負荷はさらに大きくなります。
ローテの壁は数字で見ると地味ですが、現場では効きます。気温が上がり始める6月、汗の引きが悪くなる時期、ダービー馬として外厩でみっちり整える時間も削られる。中5週は短いとは言わないものの、3,200mを走った直後としては短い部類に入ります。
ただ、レースを見る限り、中5週のローテも父ほどの失速にはつながりませんでした。父が直線で伸び切れず9着だったのに対し、クロワデュノールは最後までしっかり伸びてのクビ差2着。3,200mからの距離短縮と中5週を、9年前の父よりはるかにうまくこなしています。残るのは、最も厚いと書いた3つ目の壁です。
3つ目が、宝塚記念のコース、阪神芝2,200m内回りそのものです。
3つの壁のうち、最も厚いのがここ。距離も中5週も、ここに比べれば二次的な要素です。理由は数字ではっきり出ます。
| 項目 | 阪神芝2,200m内回り | 東京芝2,400m |
|---|---|---|
| 直線距離 | 約356m | 約525m |
| コーナー回数 | 4回(4回とも内回り) | 2回(広い外回り相当) |
| 急坂 | 2回(1周目1コーナー入り・ゴール前) | 1回(ゴール前) |
| 高低差 | 約1.8m(急坂区間) | 約2.1m |
直線がダービーで使う東京2,400mより170m近く短い。ここから入ります。
東京2,400mは、4コーナーを回って最後の直線525mで決着がつくレース。ジリジリ伸びる馬でも、最後の200mで2馬身ひっくり返せる長さがあります。一方、阪神2,200m内回りは、4コーナーで進路を確保できなければ、356mの直線では届かないことが多い。先行有利という単純な話ではなく、4コーナーまでの位置取りで勝負が9割決まるコースだと言われてきました。
クロワデュノールはこれまで東京4戦、中山2戦、京都1戦、阪神1戦、フランス2戦を走っています。中山も内回りですが2,000mで、宝塚記念とは脚を使うポイントが違います。阪神は2026年大阪杯(阪神芝2,000m内回り)の1戦のみで内回り経験はあるものの、距離が200m延びる2,200m内回りは初めてということになります。直線356mと急坂2回は共通でも、200mの距離延長で脚の配分が大きく変わるのが宝塚記念のコース特性です。
コーナー4回というのも見落とせません。
東京の広い外回り2回と、阪神内回りの4回では、走る馬への負荷がまるで違います。馬体を傾ける回数が単純に倍。コーナーで体を傾けるたびに体重を片側に乗せて走ることになり、3,200mから帰ってきた馬体にはボディブローのように効きます。
さらに急坂2回。1周目の1コーナー入りに1回目、最後の直線に2回目。多くの古馬G1コースは坂を最後に1回踏むだけの設計ですが、阪神内回り2,200mは2回踏まされる。ラスト200mの脚色に直接効く部分です。
気になるのは、クロワデュノールが今までずっと「直線で抜け出して押し切る」勝ち方をしてきた点です。
東京スポーツ杯2歳S、ホープフルS、日本ダービー、大阪杯、天皇賞(春)。いずれも直線が長いか、または直線が短くても3コーナーから動いて押し切る運び方で勝ってきました。356mの直線で、しかも急坂を上りながら抜け出す、という勝ち方は、まだクロワデュノールのレパートリーにありません。
上がり3F(最後の600m)の使い方も、東京と阪神内回りでは別物です。東京なら33秒台で来られる脚も、阪神2,200m内回りでは34秒台後半が標準。コーナーで脚を使う割合が多いため、ラスト1Fで使える瞬発力は東京より目減りします。これは馬の能力の問題というより、コースが要求する脚の使い方の問題です。
そして迎えた本番。重馬場の宝塚記念で起きたことは、この壁3の分析そのものでした。勝ったメイショウタバルは2番手をぴたりと追走し、4コーナーも2番手のまま356mの直線で押し切ります(通過順位2-2-2-2、上がり35.3秒)。対するクロワデュノールは中団5番手から徐々に進出し、4コーナーで3番手、直線で2番手まで上がってメイショウタバルに並びかけましたが、クビ差届かず2着(通過順位5-5-4-3、上がり35.2秒)でした。
注目すべきは上がり3Fです。クロワデュノールの35.2秒は、勝ったメイショウタバルの35.3秒より速く、出走馬の中でも最速級でした。脚は確かに使えていた。それでも、先に動いて好位を取った馬を捉え切れなかった。2番手から運んだ馬と、中団から差してきた馬。356mしかない直線では、最速の上がりをもってしても、この位置取りの差がクビ差となって残りました。「4コーナーまでの位置取りで勝負が9割決まる」と書いたコース特性が、最も人気を集めた1番人気の敗戦という形で、はっきり出た一戦でした。
ここで、過去10年の宝塚記念で1番人気がどう走ったかを並べておきます。
※2017〜2026年の宝塚記念に出走した1番人気馬の着順を編集部が独自集計しました。
| 年 | 1番人気馬 | 着順 | 開催 |
|---|---|---|---|
| 2017 | キタサンブラック | 9着 | 阪神 |
| 2018 | サトノダイヤモンド | 6着 | 阪神 |
| 2019 | キセキ | 2着 | 阪神 |
| 2020 | サートゥルナーリア | 4着 | 阪神 |
| 2021 | クロノジェネシス | 1着 | 阪神 |
| 2022 | エフフォーリア | 6着 | 阪神 |
| 2023 | イクイノックス | 1着 | 阪神 |
| 2024 | ドウデュース | 6着 | 京都(阪神改修中) |
| 2025 | ベラジオオペラ | 2着 | 阪神 |
| 2026 | クロワデュノール | 2着 | 阪神 |
1着は2回。3着以内は5回。
残り5回は、サトノダイヤモンド6着、サートゥルナーリア4着、エフフォーリア6着、ドウデュース6着のように、春の主役級が4〜6着に沈むパターンが多いことが分かります。馬券圏内に来ない、というだけでなく、勝負どころで脚が止まってしまうケースが目立つのが宝塚記念の1番人気です。
勝てた2頭、クロノジェネシスとイクイノックスには共通点があります。
クロノジェネシスは2020年に2番人気で宝塚記念を勝ち、翌2021年は1番人気で連覇。前年に同じコース・同じレースを勝った経験を背に1番人気を引き受けました。
イクイノックスは2022年の天皇賞(秋)と有馬記念で連勝し、2023年春にドバイシーマクラシックを制覇してから宝塚記念へ。初宝塚記念で1番人気を引き受け、そのまま頂点級の地力でねじ伏せました。
共通点は「直前に頂点級の実績を伴って宝塚記念に来ていた」こと。クロノジェネシスは前年のコース勝利と有馬記念1着、イクイノックスは天皇賞秋・有馬記念・ドバイの3連勝。クロワデュノールはダービー馬・大阪杯馬・天皇賞春馬という肩書を背負っての挑戦で、地力では十分その水準に並んでいました。結果は2着でしたが、地力の裏づけは十分あった上で、3つの壁のうち最後のコース特性に足をすくわれた形です。
ここまで壁の話ばかりしてきたので、最後に越える材料を1つ書いておきます。
鞍上の北村友一騎手は、2020年6月28日の宝塚記念をクロノジェネシスで勝っています。2番人気・8枠・タイム2:13.5。阪神芝2,200m内回りで先頭ゴールを経験している、現役の数少ない騎手の1人です。
翌2021年に同馬の鞍上はルメール騎手に替わったため、北村友一騎手の宝塚記念V1はその1回限り。けれどコースを知っている騎手は知らない騎手とは違います。4コーナーで進路を確保するタイミング、急坂の前で脚を残すラインの取り方、内ラチに張り付くか3頭分外に出すかの判断。文字で書くと小さい差ですが、356mの直線では2馬身の差につながります。
北村友一騎手とクロワデュノールの宝塚記念までのG1実績です。
| レース | 距離 | 着順・人気 |
|---|---|---|
| 2024 ホープフルS | 中山2,000 | 1着・1番人気 |
| 2025 皐月賞 | 中山2,000 | 2着・1番人気 |
| 2025 日本ダービー | 東京2,400 | 1着・1番人気 |
| 2026 大阪杯 | 阪神2,000 | 1着・1番人気 |
| 2026 天皇賞(春) | 京都3,200 | 1着・1番人気 |
デビューから10戦すべて北村友一騎手という関係性は、宝塚記念のような騎乗判断が結果を分けるレースでは大きな意味を持ちます。馬の癖を一番知っている人が、コースをすでに勝ったことのある人。揃いとしてはかなり強い部類でした。
当時のクロノジェネシスのローテも整理しておきます。2020年2月京都記念1着→4月大阪杯2着→6月宝塚記念1着。これは同年3戦目で、しかも宝塚記念の馬場は稍重。決して条件が楽だったわけではありません。春3戦目・稍重の宝塚記念を、北村友一騎手は大外8枠から外を回して勝ち切ったことになります。
2026年のクロワデュノールも、重馬場の宝塚記念で3戦目を迎えました。北村友一騎手は馬を中団5番手に置き、コーナーごとに一列ずつ押し上げ、4コーナーで3番手に。直線で2番手まで上げてメイショウタバルに並びかけましたが、2番手から運んでいたタバルをクビ差で捉えきれませんでした。2020年に大外8枠から勝ったコースで、2026年は内目枠(5番)から最速上がりで追い詰め、クビ差2着。6年前と同じコースで、勝ち切りと2着の境界線を走りました。
クロワデュノール自身に立ち戻ると、宝塚記念前の2戦の内容は文句なしでした。大阪杯は1:57.6、天皇賞(春)は3:13.7。父キタサンブラック2017年大阪杯1:58.9・天皇賞春3:12.5と並べてもほぼ同水準のパフォーマンスを見せていました。父と同じ場所まで来た馬が、父と違う結末を迎えられるかどうか。結末は「父の9着を大きく上回る1番人気2着」でした。勝ち切れなかったのは事実ですが、「やはり宝塚記念は別物」という確認ではなく、「壁3の位置取りさえ解決すれば、この馬には勝てる地力がある」という確認として記録に残る一戦になりました。
6月14日の阪神競馬場4コーナー出口の356m。重馬場の宝塚記念で、北村友一騎手は中団5番手からクロワデュノールを押し上げ、最速上がり35.2秒で2番手先行のメイショウタバルに並びかけました。しかし、クビ差届かず。
3つの壁のうち、距離と中5週ローテは乗り越えていました。届かなかったのは「4コーナーまでの位置取りで勝負が9割決まる」コース特性、壁3だけです。位置取りをあと一列前に取れていたら——という問いが残る2着でした。
北村友一騎手が2020年にこのコースで勝ったとき、クロノジェネシスを大外8枠から外を回して押し切りました。2026年のクロワデュノールは内目枠から最速上がりで迫り、クビ差で止まりました。2020年と2026年、同じコース・同じ騎手が描いた2つのレースを並べると、宝塚記念という舞台の厚さと、クロワデュノールの位置取りの一手が、改めて見えてきます。
春古馬三冠のドラマを追いかけて、次のG1レースが待ち遠しくなった方へ。
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